「お義兄《にい》ちゃん聞いてる?」
「お? おお、聞いてる聞いてる。ま、まぁ急がなくていいからな、うん。あ、手伝うことがあったら言ってくれ。なんでもやるからさ」 「えぇ~? でもお義兄《にい》ちゃん何にもできないでしょ~?」 くすくす笑いながらキッチンへと向かう伊織。たしかに何もできないけど、少しは兄らしいことをしたい。『シンジ君て義妹《いもうと》ちゃんには優しいんだね』
真横に突然現れたカレンに思わずビクッとする。
「おう? 俺は誰にでも基本的には優しいんだよ」
ビックリしたことを悟られないように、ちょうど入ってきた伊織に顔を向けて会話を始める。「なぁ伊織、セカンドストリートって……何かしってるか?」
「え? なに? お義兄《にい》ちゃんにセカンドストリートに興味あるの?」 ちょっと、情報が欲しいから知ってるならば教えてもらおうかと思っただけだったが、意外と食い気味に上体を俺の方に寄せてきた。対面に座っている伊織の顔が今は目の前にある。――う~ん、ちかいよね。かわいいけど。俺が照れるよ。
「え? なに? 有名なのか?」
「お義兄《にい》ちゃんテレビとか音楽とか興味無いからねぇ……。部屋もなんかなんもないし」 ――あれ? 伊織さん、お義兄《にい》ちゃんの部屋に入ったことあるみたいな言い方だけどいつの間に入ったのかな? 最近か?なら危なかったなって今はそれはいいとして。「で、セカンドストリートってなに?」
焦る内心を表に出さないようにして伊織の方を向く。 「あ、うん。セカンドストリートっていうのは、今、わたしたち位の歳のコの間でめちゃくちゃ流行ってる女の子のアイドルグループだよ。あ、待ってて、私CD持ってるから」 伊織が二階へ駆け上がって行く。今更だけど、伊織は二階に、俺は一階に部屋がある。再婚した親父が増える家族のためにもともとあった荷物部屋を改築したのだ。戻ってきた伊織の手には数枚のCDが大事にぎられていて。
「はい、聞いてみて!」 笑顔のままの伊織から、結構な勢いのままに手渡されたものをじっと見つめる。もちろん俺にはそんなものに興味があったわけではない。そのまま伊織はキッチンまで歩いて行き、買ってきたものをエコバックから出して野菜を洗いはじめた。まいったな、と渡されたCDを一枚ずつ見ているとあることに気づいた。確認するように裏返してみると……。これから伊織がキッチンにて料理を作ってくれるというので、俺は何もすることが出来ない。ならばと自分の部屋で調べものをする事にした。ついでに時間が有れば先にシャワーを浴びたいので声がかかるまでに終わらせようと歩き出す。
リビングから自分の部屋まではそんなに距離がない。数秒で到着し部屋のドアを開けた。 部屋にドアを開けると、カレンがベッドに腰を下ろすような姿勢で浮いていた。 黙ったまま俺は椅子まで進みそこに腰を下ろした。 そのまま少し時間が過ぎる。「で? これからどうする?」
『え? あ、うん、もちろん、体をさがすんだけど……』 「わかった。なら明日から動こう。今日はもう少し考えを教えてくれ」言いながら俺は、勉強机の上にある何もない部屋にある唯一の電子機器のノートパソコンの電源を入れる。
先程のキーワードを検索するために。『聞いたんでしょ?』
「え? 何が?」振り向いた俺の横に、顔を近づけるように腰を曲げて覗き込むようにカレンが浮いていた。
先程の件もあってか、近いカレンの顔にドキッとする。やっぱりこのコもかわいいんだよねぇ。 なんて考える。と、起動中だったパソコンが立ち上がったので向き直り、先ほどのキーワードを検索にかかる。
『だから、セカンドストリートのことよ』
「ああ、まあ少しだけな」 カチッカチッとマウスを移動させながらそっけなく返す。『気づいてないわけないわよね? 私がそのセカンドストリートのカレンだって事』
「ああ、まあこれを見ちゃうとなぁ」 カチッカチッ『ちょっ!! 聞いてるの!? 私がカレンなのよ?』
「おわっ!!」 にゅ!! と机からカレンが顔を出す「なにすんだよ!! ビックリするだろが!!」
『だって、シンジ君がちゃんと聞いてくれてないんだもん!!』 「だからっていきなりこんな所から出てくるなよ!!」 『アイドルの私の顔をタダで近くで見られるんだから光栄に思いなさいよ!!』 フンって感じで顔をそらすカレン ――さすがアイドル怒った顔もかわいいすネ。初めて見かけたときもちょっと思ったんだけど。でもね。「誰だ? それは? 俺が知ってて今、目の前にいる知り合いは日比野カレンだ。セカンドストリートのカレンなんて女の子じゃないかなぁ」
カチッカチッとマウスを使いながらパソコン画面に出ている情報を一つ一つ確認していく。少しばかり時間が経過したが、その後カレンからは何も言葉は返ってくることなく、そのまま時間が過ぎていく。 ――あれ? 怒ったのかな? 内心ドキドキしながらベッドに視線を向けると、カレンは大人しく座るような恰好で浮いていた。彼女は俯《うつむ》いたまま。それでもまだ何かを発する様子が見えない。しかたないのでため息を一つつき、そのまままたパソコンに視線を戻して暫らくした頃、ようやく小さな声がベッドから発せされた。『ありがとうシンジ君』
「な、なんだよ急に」 ベッド視線を向ける。 『シンジ君はあたしと話をしてくれてたんだ』 「どういう意味だ?」 彼女が言っている事は察しは着くが、気恥ずかしさからとぼけてしまった『そういうことでしょ? アイドルのカレンじゃなくて、今日会って話をしてる、今目の前にいる日比野カレンと話をしているって事でしょ?』
「ま、まあなぁ……って言っても目の前に実際に居るとは言えないけど、だからと言って驚いてないわけじゃないぜ? 妹からも少し話は聞いたし、人気なんだろ? お前ら。でもな、俺の前で困ってたのは幽霊だった日比野カレンという存在の君だ。決してアイドルのカレンとして話しかけてきた訳じゃなかった。ただそれだけだよ」 『やっぱり、あなたでよかった……」 そう言ってカレンはまた下を向いた。――こういうときってどうすればいいのかよくわかんないな。 ま、まぁカレンが怒ったりしてなくてよかった。少し部屋も暖かくなった気がするし。さっきまでは何となく空気的に寒かったからなぁ……。と、とりあえず風呂にでも入ってくるかな? うんそうしよう。
カレンとの会話を続けることが今の自分には難しいと判断して、この場を一旦逃げる事にした。
「えと、カレン話は風呂入ってからでもいいかな?」 『え、ええ、別に構わないわよ?』 またカレンが下を向いた。――良かった。けど、なんかさっきとは雰囲気が違うな。
「じゃぁ、悪いけど」
『はい……どうぞ』 タンスを開けて着替えを手に持ち風呂場へと向かう為に部屋のドアまで向かう。チラッと見えたカレンが恥ずかしそうにしてたのは気のせいだという事にしておこう。そのまま廊下を歩いて脱衣所に着いて上着を脱ごうとした時あることに気付いた。真横にふわふわと浮いているモノがいることに「カレン」
大きなため息を一つついてそのふわふわ浮いている奴と向き合う。 『なに?』 「なんで君がここにいるの?」 『なぜって、私はあなたに憑《つ》いてるんだものあたりまえじゃない』 「…………」――なんですとぉおおおおおおおお!!
驚いている間にも思い出したことがある。あの時、確かにカレンは言っていた。
義妹《いもうと》ちゃんには手を出さない。
『私は今こんなだし? なら優しくしてくれてもいいんじゃない? 別にいいでしょ? 見られて減るものじゃないんだし』
「う、うるさいな! 俺は基本的に人には優しいんだよ!! というかそれと今の状況とは関係ないだろ!!」――まったく、なんなんだこいつは突然現れやがって。たしかに伊織には少し甘いかもしれないけど、おれは基本優しい人間なのに。
「ていうか、なんでお前家の中までついてくるんだよ」
『あらシンジ君、女の子を家から追い出そうなんする人が優しいなんて言えないんじゃない? それにこれから暗くなるし危ないじゃない、ネ?』 「ネ? ってたしかに女の子かもしれないけど、そもそも、お前今は人じゃないじゃん!! 夜とか昼とか内とか外とか関係ねぇだろ!」 『あら、やっぱり冷たい。シンジ君って困ってる人をほっとける人なんだ?』 「そ、それは……」 ごにょごにょと口の中で言いよどむ。『それに!』
俺に向けて指を突き立てるようにしながら顔をのぞきこんでくる。 「な、なんだよ?」 『その、お前ってやめてくれない? 気になってたのよね。今はこんなふわふわ浮いたりしてるけど、私にはちゃんとカレンって名前があるんです!!』 「お、おお? ご、ごめん。でも、その……俺は義妹《いもうと》以外に女の子を名前で呼んだことなんてないし、だいたい女の子と話すのだって、あんまりないっていうか……ほぼないいっていうか……」 下を向いて更に言いよどむ。 そう自慢じゃないが俺はクラスの中でも全然目立たない部類の男子だ。当然のことながら女の子と話すのなんてハードルが高すぎる。「お義兄《にい》ちゃん? 誰と話してるの? 電話中?」
キッチンにいたはずの伊織がドアを開けて顔だけ出している。
そういえば俺は誰もいないはずの小さな部屋で大きな声を出していたんだなと改めて思い直す。「い、いや、何でもないよ。誰とも話してない。テレビじゃないのか?」
あははははっと笑ってごまかす。 ――とりあえずこのままここで話してるのはまずいな。うん、よし。「じゃあ、悪いけど出来たら呼んでくれるか? 俺はこれからシャワーを浴びる、終われば部屋にいるから」
「うん、わかったぁ。もう少しだからまっててね」 素直に返事してくれるのは嬉しい。 「おっかしいなぁ、確かに話し声が聞こえたんだけどなぁ……?」 なんて言いながらも素直にキッチンに戻っていく伊織。――すまん義妹《いもうと》よ。兄ちゃんはウソをついてしまった。
キッチンに手を合わせてゴメンネと顔の前で手を合わせる。 数十分後に頭を拭きながら自分の部屋にはいった。 『シンジ君の部屋だぁ~、へぇ~、』 「おい! ふわふわしながら何を探してやがる!」 『そんなの決まってるじゃなぁ~い、男の子のへやにきたらやることはエッチな本を探すのがお約束でしょ?』 「いやいやいやいや、な、ないから!! そんなお約束もそんな本も」 『ほんとかなぁ~?』はぁ~まったくなんなんだよこのお嬢様は。同年代の女の子ってみんなこんな感じなのかな?だったら俺やっぱりついていけねぇや。それ以上にお前ホントに幽霊ちゃんなのか?全然違うじゃねぇか。
ベッドの端に腰を降ろして目の前をふわふわ浮かぶカレンを見つめる。ほんとに何でこんな子が幽霊なんかになったんだろう?「ちょっと、話してもいいか?」
『なぁに?」ふわっとした身体をこちらに向けて柔らかい笑みを浮かべるカレン
さっきまでは下を向いたり、横顔だったりで見えていなかったが、こうしてよく見るとやっぱり今時のお嬢様って感じの雰囲気のする、目鼻立ちのしっかり整った顔のアイドルっぽい顔をしている。どくっ
――あれ? 今、一瞬だけどなんか変な感じがしたけど気のせいかな?
「少し話してもいいか?」
『うん、そのためについて来たんだもん』 「なら家探《やさがし》しすんのもうやめてくれ」 『はぁ~い』 手を挙げたカレンが素直に机の前にある椅子に腰を下ろす。正確には浮いてるんだけど。「カレン……きみは自分の体は生きているって言ってたけど、何か心あたりあるの?」
『……ある……と思うわ』 「そうか……ならそのあるという根拠を話してくれないんじゃ俺にはどうしようもないよ。言いたくない部分は言わなくていいから少し聞かせてくれないか?」彼女の方を見ると、どうしようか迷った顔をして俯いていた。
「お義兄《にい》ちゃ~ん! ゴハンできたよぉ~!」
ドア越しに伊織の呼ぶ声が聞こえてベッドから腰を上げる。 何も話してくれないなら、この部屋に漂う冷たい空気と重たい空気から逃れたい。とりあえずメシでも食べに行こうかな。腹減ったし。カレンには悪いけど俺は生きてるし。『セカンドストリート……』
部屋のドアを閉める前にカレンが呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった――。
あなたは目が覚めた時、目の前に白い顔をしたかわいい少女がのぞきこんでいたことがありますか? しかも、アイドル級にかわいい顔が。 俺はあります。今まさにそう。 うらやましいって? ほんとに? ほんとにそう思いますか? それが人間じゃなくて幽霊でも?「んんくっ!!」
寝起きの俺の開眼して映った光景に言葉にならない声をあげた。 寝起きに隣に人じゃないモノがいた時でさえこんなに驚いたことはない。だって経験したことなかったから。そりゃ俺だって、青春時代?を送る男子高だし、こうゆうシチュエーションを夢に見ないやけではない。ただそれは生身の人にであって、けして幽霊にではないのだ。「お、おまえ、俺の夢の一つを勝手に壊すなよ」
『あら、やっと起きてくれたのね。さっきから前で待ってたのに全然起きないんだもん』 ようやくモヤの取れてきた頭を起こして体にかけていたタオルケットを上げる。時計を見ると昨日と同じような時間を指していた。 休日だというのにこの藤堂家はいたって静かだ。両親ともに仕事の都合でいないことが多いし、妹は俺と違ってコミュ力が高いから友達やらが遊びに来て出かけることがしょっちゅうだった。今日は伊織は部活とか言ってたっけ。昨日夕飯時にした会話を思い出す。『で? さっきの夢の一つって何よ?』
ふわふわとベッドの周りを浮きながらのぞき込んでいるこの人じゃないモノは、自称生きている日比野カレン。つまるところの[幽霊]さんだ。ある約束のために俺に憑《つ》いているらしい。「あー、別に……。たいしたことじゃないから忘れてくれ」
『えぇ~、気になるし』 「うるさいなぁ」 言いながら「うりうり」って感じに指で肩をつつこうとする。――体をつつくな!!どうせ通り過ぎてくんだから。
案の定俺の体を素通りしていくカレンはほっといて、とりあえず着替えをするついでに出かける用意もしてしまう。引きこもり気味の俺だが、一応出かけるとき用のための服はある程度持っている。まブランドものってわけじゃないけどね。『シンジ君、今日から始めるのね?』
「そうだな。昨日カレンから詳しく聞いた事を基にして、君の周りの人たちから情報を集めていくことにするよ」 『わかったわ。私も憑《つ》いていくからできる限り協力する』 ――あれ? 今なんか言葉のニュアンスが違ったような気がするけど。 むん! という感じで胸の前で腕を突き出すカレン。気合を入れてるポーズのようだ。そんなカレンを見て苦笑いする。「いいか、前もって言っておくけど、あんまり俺に近づくな。君たちみたいなモノが近くにいると寒いんだよ」
『なによぉ、そんなこと言って。あ、わかった! テレ? 照れてるんだ!!』 「ぶっ!!」 思わずむせる。「かわいい~」とかなんとか言ってるけど、俺はそもそも人じゃないモノとか嫌いなんだからな!! ま、確かにカレンはセカンドストリートっていうアイドルだというだけあって外見はかわいいんだけどな。 「しゃべらなきゃな……」 こころの声が漏れてしまっていた。 『え? なに?』 「なんでもねぇよ!いくぞ!!」 『あぁ~っと、まってよぉ~』 ――あぶねぇ~! 聞かれたらハズいじゃねか。それから夕方までカレンの学校の友達とか事務所とか立ち寄りそうなとことか、一応聞ける情報を集められるだけ集めてみた。途中、カレンの友達やらにカレシと間違えられたり、事務所の偉い人から関係を深く追及されストーカーに間違えられて、警察に通報されそうになったりと冷や汗をかく場面もあったが、後ろに憑いてきて来ていたカレンが助け舟的なアドバイスをくれておかげで何とかやり過ごすことができた。
そして思い知る。芸能関係に限りなく接点がない俺でも理解できるくらい、[セカンドストリートのカレン]はアイドルなんだということだ。数時間後――。「え~っとだな……」 集まったメンバーを見回しながら俺は固まっていた。なぜならそこにはいつものメンバー以外の人がいたからなのだが、なんというかその……華やかなのだ。――というか、いつの間にか人多くねぇぇぇぇぇ!? いつものメンバー五人に、三和・遠野・妻野までいるし。さらになぜか正晴までいる。一番危ないって分かってんのかなコイツと心の中で独り言ちる。「何で、こんなに多いの?」 俺は率直な疑問を五人の方に向けた。「ええと、玲子にあの後連絡したら、遠野さんと妻野さんもその神社に興味あるっていうから、じゃぁ一緒にどう? って話になって、こんな感じかな?」 相変わらずのんびり屋さんっぷりの響子が俺の方にウインクする。「はぁぁぁ~」 先が思いやられてため息が出た。「じゃぁ、そろそろ時間だから行くけどいいかな?」「「「はぁ~い」」」「「「いいよぉ」」」「よっしゃ!!」 なんだろう。なにか複雑な気分だなこれ。 バス停に向けて歩き出した女子組の後を男子2人が付いていく。「なぁ~、真司」「なんだよ?」「どの娘《こ》がお前のカノジョなの?」「はぁぁぁ!?」「とぼけんなって! いるんだろ?」「い、いやいねぇし!! そもそもいたらそんな湖なんか怖くて行けないからな!! つうか、お前が一番気をつけなきゃなんねぇんだからな!! 普通来ないぞ!! お前バカなの!!」 息を切らせながら正晴に否定する。「わかった!! わかったから!! で、どの娘《こ》なん?」――ぜんぜん分かってねぇなぁコイツゥゥゥゥ!! 今日の行き先にとてつもなく不安がよぎっていく。 バスの中ではもう完全に遠足状態だった。 きゃいきゃいと女子組がはしゃぎながら最後尾を独占している。 俺はもう何かを言うのをやめた。だ
仲がいい二人が部活があるって出ていった後の喫茶店内にて、新たな行動計画を立てることになった。「今回の元凶は間違いなくソッチなのね?」 大きく一つため息をつくカレン。「ああ、あのおじさんが言ってた事が気になって調べたんだ。間違いはないと思う」 コーヒーをクチに運びながら話す。「じゃなまたみんなであの湖に行かなきゃね」「そうねぇ、しかも縁結びの神社なら一度は行っておかなきゃでしょう」 と理央アンド響子姉妹。「絶対に一緒に行きます!!」 むんっ!! と両手を握りしめ気合が入る伊織。「え~っと、この五人で行くって事で決定……なのかな?」「あたりまえでしょ! ここまで参加したのにそこに行かないでどうすんのよ!」 カレンがなぜかやる気満々である。「それにこの件はもともとが私が持ち掛けた話でもあるし、私は最後まで付き合うわよ」 そのカレンに響子も続く。 理央も伊織も「もちろん!」って顔してる。「わかった。みんなありがとう」 立ち上がって、ペコっと頭をさげた。 頭を上げたのと同時ぐらいにカレンが手帳を出して何かを確認し始めた。「そうと決まれば早い方がいいよね。じゃぁ明日決行よ!!」 その一言に俺はあきれたのだが、不思議と否定の声が上がることなくそのまま確定した。集合場所や時間。移動手段や費用の話までが次々と決められていく。 もちろん俺はただそれを横目に聞きながらコーヒーをすするだけだった。「じゃ、これで決まりでいいよね、シンジ君」「ぶふぅ!!」 いきなり話を振られた俺はコーヒーをちょっと噴き出した。それを伊織が黙って布巾でふきふきしてくれた。ありがとう伊織、さすが我が義妹《いもうと》だって心で思う。 そしてみんなの視線が俺に集まる。「な、なんで俺に聞くの?」「何言ってんの? シンジ君がリーダーでしょ?」 うんうんとみん
正晴の言葉に驚愕して体から負のオーラが出そうになった時、言葉と同時に鉄拳が正晴に飛んでいた。「ちょっと、正晴!! この藤堂クンが前に言ってた人だよ!!」――かなり強めに突っ込まれてたけど痛そうだなぁ……。 しかしこの二人、くっついたり別れたりしているだけあってさすがに仲がいいし。ぎこちなさが無い。「え? 真司が!?」 どんな話されたのかは分からないけど、この子も相手が男だとは伝えてなかったみたいだな。 さりげなく会話するふりをしながら、俺は正晴の様子をうかがう。遠野と妻野のカレシは影響が出ていると言っていたから、目の前の、正晴にも出ていると思ったからだ。しかしそんな気配は感じられなかった。 それとは別に三和の方は――。「何だよ真司、それならそうと昔から言ってくれりゃいいのに」 真顔でそういう正晴に俺は苦笑いで返した。「言えるわけないだろ……そんな事」 二人がカレン組の方へ腰を下ろしてようやく始まりの盛り上がりは落ち着いた。「三和さん体調良くないんですか?」 俺の隣で静かにホットチョコレートを飲んでいた伊織が[三和]の方を見て話しかけた。「ええ、その……わかりますか?」 皆がうなずいた。「最近少しづつですけどダルさとか出て来ていて、アレはまだ見えてるし。声まで聞こえるようになってしまって」「あの二人はどうなの?」「それが、響子ちゃんからあの湖に行って来たって連絡あった日から、そういうのは全然なくなったって言ってて。私だけいまだに続いてるの」 響子の問いかけにも疲れている感じに答える。――少し解決を急いだほうがいいかもしれない。 俺の心がそう言い始めてる気がする。「すいません三和さん、聞きたいことがあるんですが、その現象が現れた日は1人でそこに行ったわけじゃないですよね?」「え? ええ、そうです」
座ってしばらくは静かな時間が流れる。 腰を下ろしてからも伊織がしたを向いたままなのだ。 一つため息をついて、バッグから水のペットボトルを2本取り出して1本を伊織に渡す。「ありがとう」って受け取ってくれた。「伊織、話があるんだろ?」「あ、うん……そうなんだけど、ちょっと聞きづらいというか……」「何だ? 別にお兄ちゃんは伊織に隠してる事なんてないぞ? あ……あれか? あれの事か?」「あ、あれって何? そっちも気になるんだけど!!」「え? あ、いや、知らないなら別に、うん」 何かかみ合わない会話が続く。 急に正面を向いた伊織が胸の前で祈る様なポーズを作る。「お、お義兄ちゃんあのね!!」「お、おお。なに?」「お義兄ちゃんってカレンさんの事が好きなの? もしかして、つ、付き合ってるとか……?」――義妹《いもうと》からとんでも発言きたぁぁぁぁ!!「ぶふぅっ!!」 飲もうとしていた水を思いっきり吐き出した。「ゲホゲホッ!! ガホッ!!」「だ、大丈夫お義兄ちゃん!!」「だ、大丈夫……。つーか、なんてこと聞くんだよ」「だって……仲いいんだもん。カレンさんとお義兄ちゃん」 もじもじとしだした伊織。こういうところは女子だなぁて思える。「ああっと、カレンとは何でもない!! カノジョとかでもないぞ? まぁしいて言うなら、ケンカ友達の一人かなぁ……?」「そ、そう!」 途端に伊織の表情が明るくなったような気がする。――なんか鼻歌みたいなのも聞こえるし最近情緒不安定すぎじゃないか?「友達……か」「ン? なぁに?」 無意識にあの女子組三人を友達というくくりで呼んでしまった自分に少し違和感を覚えた。少し前の自分には考えら
「あ~!!」 湖からの帰り道。 理央のから離れたモノの影響を考えて少し時間を休ませてから来た道を歩いている。その中で俺の前を歩いていたカレンの突然の咆哮である。もちろん皆がビクッとした。林にいた鳥もバサバサと飛び立つ。「な、なんだよカレン!! ビックリするだろ!!」「思いだした!!」「何を?」 皆の視線がカレンに集中する。「あの人が言っていた秋田真由美って名前ね、どこかで聞いた事があるなぁって思ってたんだけど」「だけど?」「話のなが~~~いおばあぁちゃん家で聞いたよ!!」「「「えええぇ!!」」」「な、なんで言わないんだよ!!」「だって、今思い出したんだし、それに話が長くて今まで忘れてたんだもん」――やっぱりカレンはポンコツお嬢だと思う。ステージの上のカレンとは別人だ。 浜辺で話した幽霊である秋田真由美は、今まで会ってきたモノの中でも、表現が合ってるかはわからないけどいい人だった。 だから素直に話を聞いたのだが、彼女はただ静かにいたいだけなのだと言っていた。自分はここから離れてはいけないのだと。 そしてここ最近の湖周辺での事故や事件にはかかわっていない。別のモノがしているのだとも言っていた。 ならば俺たちはまた別の方向からこの件を考えなくてはならないだろう。「『今までしたことはあの子たちには申し訳ないと思ってるわ。もうあの子たちには影響しないし、これかも他の方々にはしないわ。約束する』」 真由美はそう言ってくれたのだ。俺はそれを信じたいと思う。「これからどうするの?」 てくてく歩きながらカレンが問いかける。「うん、あの人の言う事を信じるならまずはこの件を調べ直さなきゃいけないと思う」「そうね。中に入られてた私が言う事じゃないかもだけど、あの人、嘘は言ってなかった感じがしたわ」 身体を使われていた理央が少しダルそうな体を振り向かせて共感してくれた。「それに、気になることも言ってたし」「そうなの?」
ソコは静かな水面に不釣り合いなくらいすごく空気が重かった。 湖に近づくにつれて雰囲気は悪くなり、それまでははしゃぐ声も聞こえていた女子組からも、その声は小さくなり聞こえなくなった。「着いた……みたいだけど、みんな体調悪くなったりしてないか?」 振り返って確認すると、みんな声は出さずにコクンとうなずくだけで返事する。 ここにいる人達はみんな一度はソレを経験して、ここの空気が重い事を感じているみたいだ。「それで、ここでどうするの?」「えと、水に入った後で皆さん変わってしまったと言ってました」 カレンと伊織が荷物を置いて浜を降りていく。「あ、待って待って」「やる時はみんな一緒にだよぉ~」 市川姉妹もその後に続く。 俺も急いで荷物を置きみんなのいる場所へと向かった。「せぇのぉ~三、二、一、はい!!」 ぽちゃっ ドボンっ ちゃぷ いろいろな方法でいろいろな個所を各々が湖に体をつける。 そのまま五分。「よし、みんな湖からいったん離れてくれ」「はぁーい」—―なんかこういう時みんな素直に従ってくれるんだよね。やりやすいからいいんだけど。なんかくすぐったい感じがするなぁ。「どう? 何か変わったりした人いるかな?」 女の子四人で顔を見合わせている。 俺が見たところ変わった様子は無いみたいだけど油断はできない。「そういえばさぁ……。私達って誰もカレシいないんじゃなかったっけ? これって検証になるの?」「いや、その検証も大事だけど、俺はこの場所を見たくなったんだよ」「へぇ~、どうして?」 こちらに振り返った響子に聞かれる。 カレンの言った事は間違いなくその通り、カレシも彼女もいない俺達ではソノ検証は出来ない。それは知っていた。なのに響子からの疑問[なぜ来たかったのか]に